わたしたちは手のひらの中で世界を知ることができます。そこにある画像や動画は電子的に知覚でき、モノとして実体を伴いません。一方で人は大部分の動植物と同じ生きものとして、実体をもって生きています。老いて、死んで、土や海に還ってゆく存在です。手のひらの中で知っていることと、その場所に立って空気を吸い、匂いを嗅いで、手で触れ、土地を歩いて、人と話して知っていることは、同じことなのに違う存在であり、それらが時差なく存在する社会にわたしたちは生きています。

私はいま住んでいる東京という街を写真に収め、鉱物の模様の中にそれらを閉じ込めて、光をとおしてみる作品をつくりました。さながら文明を標本のように眺められる作品です。都市の様相は時代の先端に存在しています。制作したいまこの場所では、新たなウイルスの脅威に晒され、その中でこれからの生き方を模索している人々が暮らしています。実体をもつこの世界では、どんなに新しいものも、やがて古くなる。毎日は過去になります。だからといって無用になるわけではなく、これらの積み重ねに今が存在しています。それらに太陽の光はあまねく、等しく照らされていて、美しくもあると思うのです。

どんなに変化の多い時代にあっても、どんなに酷いことのなかでも、不変に存在する光を感じ、いとおしいものを見つけたい。

新しいものが古くなっても、価値が時代によって変化しても、喜びや希望はいまここにあることに、手のひらの中の小さなところから気付いてゆきたいと思い、この作品をつくりました。


-Series: 文明標本

-Year: 2021

-Medium: Lambda print, glass

-Image size: 24 × 36 mm

-Glass size: 26 × 76 mm

-Edition: 1/1 Unique ED (+AP1)

-Camera: FUJIFILM X-T2, XF Lenses